モクジ

  有明月の光が消えたら  



 まだ夜の明けぬ暁方に、貴方は去ってゆきました。

 氷るような有明月の光を背負い、とぼとぼと。

 わたしはほぅと息を吐きました。ため息と共に、涙が零れ落ちました。


 貴方はこの冷たい有明月を、冷たくあしらったわたしと重ねて見ているのでしょう。


 和歌に秀でた貴方は、この情景をさぞや美しい恋の歌として詠んでくれるでしょう。

 それだけでわたしは充分です。

 貴方への、燃え尽きることのないこの想い。

 秘めつづけてみせましょう。


 貴方の背中が見えなくなる。

 闇に溶け込み、もう二度と逢わぬようにと。

 数日は、私の為に泣いてください。

 その後は、お好きになさってください。


 今日は、このわたしを思い浮かべさせられる有明月であるかもしれません。

 けれども貴方ならすぐに、新しい女性との別れを惜しむ有明月に変わるでしょう。


 その頃わたしは意に染まぬ、高位の男性に嫁ぐでしょう。

 貴方はもしかすると、風の噂で耳になさるかもしれませんね。

 けれど、その男性と一緒になる為に自分と別れたのだと思うでしょう。

 わたしはまだこんなにも、貴方のことを愛しているけれど。

 それで、よいのです。


 東の空が、ふわりふわりと夜の帳をほどいてゆく。

 冴えわたる有明月の光が、やわらかくなってゆく。

 今日からは……

 貴方を忘れたわたしとして、生きてゆきましょう。
モクジ
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