モクジ

  月光の泉  



 月の光が泉に満ちる夜。
 冷えた夜風が吹きつける。はためくのは、泉を取り囲む何十人もの女の白いスカート。
「お行きなさい、ルネッタ」
 集団の中から押し出された少女は、頼りなさげに足下をふらつかせた。
 足の指先が泉に浸かり、ぴしゃっと水がはねる。
 小さな波紋はゆるやかで大きな楕円を描き、泉全体に広がってゆく。
 森がざわつきはじめる。
「ルネッタ!」
 鋭い叱咤の声。
 ルネッタはびくりと身体を強張らせた。しかしぎゅっと目を瞑った後は、恐怖に震えながらも一歩一歩泉の中心へ歩を進める。
 纏った布地が水を孕み、海月のように広がった。
 森が揺れる。
 ざわざわ。ざわざわ。
 ざざざざざ……。
 ぞくりと悪寒が走った。良い傾向ではない。
 ルネッタの歩みは、散漫なものになってゆく。
(今宵は、失敗かもしれない……)
 そう思いはじめると止まらなかった。悪い予感だけが脳裏をめぐり、神聖なものへの集中力が無意識のうちに薄らいだのだろう。
 溢れていた月の光は、瞬く間に陰り雲に飲み込まれてしまった。
「あ……!」
 思わずあげたか細い声は、森のざわめきと泉に立つ波の中に消えた。


 IMAGINE No.2 参加作品
モクジ
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