荒れ野に立ちて
かつて、この荒野には覇王が居た。
今はすっかり荒れ果ててしまっている小高い丘の上には、壮大な塔を構える城も在った。
城下町はこれ以上ないほど栄え、華やいでいた。
整備された街道を利用し、さまざまな国の商人たちがやって来て珍しいものを売り買いしていた。
世界が自らの
掌の上にあると、信じて疑わなかった日々。
私は今、その城跡に立っている。
ごろごろとその辺に転がっている
瓦礫は、おそらく城のシンボルであった天守の塔の成れの果てであろう。石の大きさや切り出し方を見れば、その塔がどれほど立派だったかということがうかがい知れる。
心地よいそよ風に吹かれ、伸び放題の雑草がさらさらと涼しげな音を立てる。
何もない場所。
けれどそれが神聖に思えた。
「天守の塔を、より高くせよ。神々の
御許へ届くがごとく」
ある時、覇王はそう言った。
この世界を
統べるだけでは飽き足らず、神へ近づこうとしたのである。
日に日に高くなってゆく塔を眺めることが、覇王の唯一の楽しみとなった。
塔の階段を昇り、天上の国へ迎え入れられる日のことを想像しながら。
……けれど神々が、そんな人間の
冒涜を許しておくはずはなかった。
天へ届かんとしたその塔は、
雷により一夜にして崩れ落ちた。
「……それで、良かったのだ」
わたしは大きく息を吸い、吐き出しながらひとりごちる。
あの頃は知らなかった。
草木の囁き、風の匂い。
空の微笑み、大地の鼓動。
世界はとんでもなく広かった。
涜神にまみれた私までも、包み込んでくれるくらいに。
「さて、行くかな」
残された人生を、この優しい世界の中で幸福のなか終われるように。
私は歩き出した。
IMAGINE No.2 参加作品