モクジ

  輪廻の場所  



 ゆら、と風も無いのに炎が揺らいだ。
 此処は炎の生まれる場所。鎮魂の灯火が、ゆらゆらと揺蕩たゆたって小川を下ってゆく。
 今日は魂の休息日。

 還っておいで。還っておいで。此処に居るから。

 僕はずっと此処に居るから。

「ダイ」
 灯火を流す水のせせらぎのような、ユエの声。
「また泣いているのね」
 背後から、ユエの細い腕がまわってきて僕を抱き締める。でも僕は、それに応えることができない。
 ユエはいつも、こうしながらこっそり泣くのだけれど。
 未だ還らぬ人を想って。
 僕は空を仰いだ。その瞬間、スッと静かにひとつの星が流れるのを見た。

 還ってくるんだ。還ってくるんだね。

 ずっと、僕は君を待っていたんだ。

「……ダイ?」
 僕が急に立ち上がったから、ユエは尻餅をついてしまった。でもすぐに起き上がり、ぎゅっと僕の腰に抱きついてくる。
「いくの?」
 僕は動かなかった。
「貴方もいってしまうの?」
 僕の腹の前で組み合わされた、青白くて骨ばった手。僕はやさしくほどいてあげた。
「……還ってきたのね。そしてまた、いくのね」
 それ以上、ユエの手は縋りつこうとはしなかった。ただ、こう言った。

「あの人を見つけたら、覚えておいてね。また貴方が此処へ還ってくる時まで、必ず」

 僕はもう振り向かず、まっすぐ延びる道を歩いていった。あの星が、還り着いた処へ。
 覚えている、君の光だけを頼りに。
 歩いた。ひたすら歩いた。けれど疲れはしなかった。
 突然、光が溢れた。あたたかい海のような、深い青色が僕を包んだ。

 君が見えた。駆け寄ってくる。

 僕はとびこんでくる甘い香りの女の子を、胸いっぱいに抱き締めた。
「ダイ! また逢えたのね!」
「待ちくたびれたよ、ルウ」
 僕たちは手を取り合い、海の光の奥へと歩きはじめる。そこに扉があるのだと知っていた。
「また、いくのね」
「やっと、いくんだ」
 僕たちは顔を見合わせて少し笑った。
 何度だって僕たちは、二人で同じ扉をくぐってきたしこれからもくぐるのだけど。
 決して同じ生は無い。


「さあ、いこう」


 再びあの地上の国へ。
モクジ
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