― 関西弁シリーズ ―
いつかのためのロマンティック
冬休みに突入して二日め。今日はクリスマス・イヴだ。
とは言え、受験生なので浮かれている場合ではない。俺は仁志と一緒に、町立図書館で勉強をしている。
共に理系科目が得意なので、どうしても数学と理科に力が入ってしまう。苦手な英語はそこそこ出来ればいい、と最近は割り切ることにした。
「そういえば、有樹」
仁志が顔を上げ、手にしたシャープペンシルをくるりと回した。
「お前、沙希ちゃんといつの間に別れてたん?」
「……あぁ……」
沙希と言うのは、仁志に紹介されて二ヶ月ほど前につきあいはじめた他中学の女子生徒のことだ。
言われてみれば随分と会っていないし、連絡もしていなかった。
「さあ……? 全然、連絡とかしてへんかったしな」
「お前なあ……」
仁志はこれみよがしにため息を吐いた。
「そりゃ呆れられるわ」
「俺はお前みたいにまめとちゃうから」
そもそも沙希を紹介されたのは、仁志が付き合っている華という女子生徒の友達だったからだ。
つきあいはじめの頃こそ、“彼女”という存在に浮かれてそれなりに心配りをしていたけれど、何だか違うな、と感じることが多くなって、そのままだった。可愛い子だったし、それなりに好みかなとは思ったのだけれど。
「めんどくさいやん」
「まぁ……そんなお前にしたらよう続いた方かな……」
さすがに小学生の頃からのつきあいだけあって、俺の性格はわかってくれている。少々飽きっぽく、目立つことは好きだが細々としたことはめっぽう苦手なのだ。
「仁志は? 続いてんのか?」
「当たり前やろ。お前と一緒にすんな」
今日も駅で待ち合わせや、と仁志は笑う。
仁志は、格好をつけているわけではないのにそういう気配りができる奴だ。俺にはとても、逆立ちしたって無理な芸当だ。
「ふーん……。お前は楽しそうやな」
「まぁな。……ま、高校入ったらずぼらな有樹につきあってくれる子も見つかるやろ」
沙希の他にも一人、同じ中学の女子生徒とつきあったことがある。同じ学校である分こまめに連絡する手間はなかったが、逆にいろいろと詮索されたりして面倒になって、結局一ヶ月ほどしか続かなかった。
目立つのが好きな分、女子生徒が興味本位に寄ってくることは何となく自覚している。けれど、俺自身はまだ、いわゆる男女交際というものには興味が薄いのだと二回の経験を通してわかった。
「そうやなぁ。しばらくは要らんわ。勉強せなあかんしなあ」
俺と仁志の志望校は同じ、塔陽高校。
俺がそれを知って、少しほっとしたのは内密事項だ。俺は人見知りなんてまったくしないし、新しい学校生活に緊張するような玉でもない。けれども、傍にいることが当たり前の存在となっている仁志の姿があるとないでは大きな違いがある。
「……じゃあ、志望校に入れるようにもうちょい頑張るか」
「そやな」
そうして二人とも、ほとんど終わりかけの数学の問題集を閉じて英語に手を伸ばしたものだから、お互いに少し苦笑した。
* * *
仁志と駅前で別れたあと、俺はケーキ屋に寄った。出がけに、母親から予約したケーキを取ってくるように言いつかっていたからだ。
ケーキ屋の前には、行列と呼ぶほどではないけれど十人弱の人々が並んで順番待ちをしていた。
面倒だ、と心の中で毒づきながら、俺はその最後尾に並んだ。前には同じ歳くらいの女の子が二人いて、談笑している。
「ケーキの買い出し係なんてラッキーやんねぇ。好きなの選べるし! 眺めてるだけで幸せやしっ!」
「どれも綺麗でおいしそうやし、迷うわー」
友達同士でのパーティーでもあるのだろう。もし同じ歳だったら、受験の息抜きといったところか。
せっかくのクリスマス・イヴ、一日くらい息抜きも必要だ。俺は、今日はもう勉強はしないと心に決めた。
うちは予約をしていたけれど、店頭でケーキを選ぶ客も多いようだ。そのせいか、列はなかなか進まない。俺は聞くともなしに、女の子達の話を耳に入れる。
「ホールで買う? でも好みもあるやろし、別々で買った方がいいかなあ?」
「そやね……でもホールの方がきっと安くつくやんね……」
まだ少し遠いガラスのショーケースを人の間から覗きみるようにして、二人は話をしていた。
「ここはやっぱり無難に、イチゴと生クリームのやつ?」
「あっ、でも確か、生クリームあかん子いーひんかった?」
生クリームが駄目な奴はたまにいる。俺も、食べられないことはないが、クリームの類は甘ったるすぎてあまり好きではない。どちらかといえば洋菓子よりも和菓子派だ。
「ナッちゃん、あれ! あれにしーひん!?」
ボブヘアーの女の子の方が、ショートヘアーの女の子の腕を引っ張ってショーケースを指さした。
彼女が指さした方向には、丸太をかたどったケーキがあった。チョコクリームでコーティングされていて、木の皮に見えるように表面には模様がつけられている。砂糖で作られたサンタクロースとトナカイも乗っている。そして、雪に見立てた砂糖のようなものがふりかけられていた。
確か、何とかかんとかって名前があったような……。
「あ、ブッシュ・ド・ノエル? いいやん、いかにもクリスマスって感じ!」
「小さい頃、家で作ったなぁ……お母さんとジュンちゃんと一緒に。とてもあんな綺麗にはならへんかったけど」
「……へえ〜? ジュンイチ先輩と?」
苦笑するボブヘアーの女の子を、ショートヘアーの女の子がひじでつついた。
「アヤちゃん、仲良いやんねぇ〜ジュンイチ先輩と。幼なじみやっけ?」
「うん。ホントそれだけやで? ナッちゃんが期待するような話はないって! お兄ちゃんみたいなものやし」
彼女の表情にますます広がった苦笑い。きっとこんなやりとりが日常茶飯事なのだろう。
「ふーん? ……まぁでも、憧れやんね。好きな人とクリスマス!」
「うん。やっぱりいつかは……って思うわぁ」
それからゆるゆると動き出した人の列は順調にさばけてゆき、その女の子たちはチョコレートのブッシュ・ド・ノエルを買って行った。
偶然にも、うちが予約していたケーキも同じものだった。
大ぶりのケーキ箱を持って店の外へ出て、空を見上げる。
街灯や街路樹のイルミネーションに照らされた明るい闇に、薄く星が瞬いている。よく晴れているから、ホワイト・クリスマスにはならなさそうだ。
今はまだ無縁な話だけれど、いつか俺にもロマンティックなクリスマスが訪れるのだろうか。
そう思うと、少しくすぐったい気持ちになった。
「読んだよ!」の記念に是非。メッセージも送れます。
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