[ 空 ] 空が好き。 青色が好き。 何処までも広がって、繋がって、すべてを包み込む優しさが好き。 飛行機雲が交差して、空の上を滑っていた。 ぐちゃぐちゃと絡まっていた不安や憂鬱が、ふわりと解きほぐされた気がした。 |
[ 双子の太陽 ] 双子の太陽が沈みゆく。 少し前をゆくのが兄太陽。その後をぴったりくっついてゆくのが弟太陽。 直接この瞳で捕らえたら、あまりの眩しさに目が眩んでしまう。 天に坐す至上の存在。 けれど、至上はただ一つ。 後ろを振り返ると、炎を揺らめかせる太陽一つ。 前に視線を戻すと、幻の太陽双児。 |
[ 独占欲 ] わたしを見てくれない貴方が 少し憎らしい その眩しい笑顔が 太陽のように誰にでも与えられることに 嫉妬する 醜い独占欲を わたしは笑顔に押し込める そんな笑顔で貴方を見つめても 振り向いてもらえるはずがない 独占欲は わたしの心の雑草 引き抜いても引き抜いても生えてくる雑草 雑草に埋もれた小さな小さな恋の花は もしかしたらという淡い期待を胸に抱き ひっそりと 咲きつづける |
[ 夕暮れ昇竜 ] 夕暮れの空は、とても綺麗だ。 様々な色が混ざり合い、溶け合い、融合している。とても言葉では言い表せない。 深い青。薄紫。橙。薄桃。本当はもっともっと、名もない色が隠れているのだろう。 その空を大きく横切る、竜の姿。 身体をくねらせ、わたしの視界いっぱいに広がっている。 天帝の御許へ、夜を迎えにゆくのだろうか。 ゆっくり、ゆっくり。 風に吹かれて、少しずつ形を変えながら。 竜は天頂を目指して昇る。 |
[ 夢、儚し ] 夢を見た。 知っている人が居たような、居なかったような。 愛おしい人が居たような、居なかったような。 切なかったような、そうでなかったような。 悲しかったような、そうでなかったような。 確かにその世界は存在していたのに、夢から覚めた途端、崩れ去ってしまう。 わたしはその世界で生きていたのに、夢から覚めた途端、消滅してしまう。 二度と、同じ世界へ行くことはない。 |
[ わたしの生きる道 ] 果てしない空の下 わたしたちはそれぞれに 運命(さだめ)を辿り生きている 鮮やかな歌を大地に 優しい祈りを空に捧げ わたしは言葉を紡ぐ 大地の輝く煌めきを 空の豊かな抱擁を わたしから生まれた言葉がいつか 誰かの心をしあわせ色に ほんのり染められればいいな |
[ 嘘 ] 小さな嘘は 坂を転がる雪玉のように ずんずんと大きくなって わたしの心を押し潰そうとする 輝く星を掴みたかった 爪先立ちした脚はぶるぶると震えて 今にも倒れてしまいそう 嘘をつかなければいい 背伸びをしなければいい けれど 人間はいつでも少し自分を偽る 自分を良く見せるために |
[ からっぽ ] からっぽなわたしからは 何も生まれない ちっぽけな気力さえ 拙い言葉さえ 虚無の中 たゆたっていれば 平穏 だけど無益 一歩外に出れば わたしの脳に、身体に、心に、 世界が飛び込んで ちょこっとの前向きさと 心のままの言葉が生まれる そして、生の喜びも。 |
[ わたしの愛 ] 愛してほしいと願っても 愛する方法忘れたわたしは 誰にも愛してもらえない 優しい言葉ひとつで 甘い視線ひとつで わたしの心はぐらりと揺れて けれどわたしは愛せない ぐらりぐらりと傾く胸を抱いて その疼きをもてあますだけ わたしの身体でこの想い 表現することできないから ここに言葉で綴ります |
[ 愚かな恋慕 ] また懲りもせずわたしの心は 傍に居る人に傾きはじめた 嗚呼 何て愚かなわたし 嗚呼 何て愚かな恋慕 すぐに離れてゆく一時の疾風 やがて枯れゆく小さな野の花 この恋心も同じ だけどもう手遅れ 風に包まれ 小花を摘み わたしは心を手放した 恋とも呼べない 愛とも呼べない おままごとみたいなわたしの恋慕は 一瞬で咲き 一瞬で散る それでもいい この刹那が愛おしければ |
[ 夢とろり ] とろりとろり 夢が溶ける わたしを眠りに引き込んでゆく この胸の痛みよ 夢の中では甘くあれ 閉じ込めた涙よ 夢の中では笑顔であれ とろりとろり 悲しみ溶ける とろりとろり 苦しみ溶ける とろりとろり 夢へ落ちる |
[ 曇り心 ] 薄灰色の汚れた綿みたいな雲が 厚く空を覆っている 泣き出しそうで 泣き出さない 立ち尽くして わたしはその一粒を待っている この身体に空の涙を受ければ 雨雲が垂れ込めたわたしの心も 涙を流せる気がして 空を見上げて 待っている 泣いてしまえと 心で叫んで |
[ 梔子 ] 純白の花弁を重ね 艶やかな吐息を吐く 傍を通る度 甘美な香りに眩暈がする 胸中で燻る甘やかな想いが 色づけられる 真白の花を 染めるがごとく --------------- Gardenia laps snow-white petals, And gathers amorous breath. Whenever I pass near the flower, I'm fascinated by sweet scent. The love hidden in my heart is colored. Like dyeing the white flower. |
[ 夏の凛 ] 夏の夕暮れ 涼しさを孕んだ微風とともに 頬を撫でるヒグラシの声 高く澄んだ風鈴の音のように 耳に残る 残酷なほどの陽光と 喧しいアブラゼミは姿を消し 凛 凛 と 空気が震える アマガエルの大合唱がはじまるまでの 静かな ひととき |
[ しゃぼん玉 ] かすかな風に揺られて 空を漂うしゃぼん玉 子どもたちの無邪気な笑い声とともに きらきらと光る 地面にぶつかるかと思えば ぐんと上昇して 儚く見えても実はしたたか くるくると自転しては 万華鏡の幻を見せる その奥に 嗚呼 幼い思い出が チカリ |
[ Cafe au lait ] コーヒーが苦手だったあの頃から わたしは少しでも 成長したのかな 甘党なのは相変わらずで コーヒーよりは カフェ・オレが好き 思い出は決して美しいものではなくて まだきちんと向き合えずにいるけど もう少し待っていて どうか笑っていてください わたしのことなど脳内から排除して それだけを祈っています わたしはきっと 今から幸せになれると思うから だから貴方も幸せでいてください |
[ 夏空の夢 ] 春夏秋冬、空の色なんて変わるはずもないのに、夏の空は涼しげに見える。 それはきっと、空の大部分を入道雲が占めているからだ。真っ白い雲の色が、空の色を涼しくしているのだ。 夏の空はすっきりしすぎていて少し味気ない。 憂いを帯びた紫や天上まで焼き尽くすかのような紅に染まる夕暮れや、雪が降り出す前のしんと静まり返った重たい曇り空の様子と比べたら風情がない。 だけど夏の空には、入道雲を分け入った彼方にはもしかしたら、御伽噺に出てくる天空の城があるんじゃないかという浪漫がある。 入道雲は実は綿菓子で出来ていて、雲の上に寝転んでおなかいっぱい綿菓子が食べられるんじゃないかという子供らしい夢もある。 さあ、翼を広げて、未知なる空へ飛び立とうか。 |
[ Doll ] レースのカーテンを透かして 晴れわたる空の色が見える 真綿のような雲の色が見える 外は鮮やか だけどわたしを殺してしまう わたしはずっと此処に居る 希望も絶望も何も持たない ただ過ぎてゆく日々を 無感動に眺めているだけ 被った埃を払う手もなし ひたひたと這う毒々しい蜘蛛 わたしは此処で朽ちてゆく |
[ 一枚の写真 ] 掃除をして 貴方の写真が見つかった 直視できずに そのまま捨てた 貴方がくれた幸福も 確かにあったのだけれど やっぱりつらい もう貴方の姿は見られない だけど1枚だけ 持っておきます 貴方をすべて消し去ることは 間違っていると思うから さようなら 写真の中で笑う貴方 もう過去にしか居ない貴方 何もかもを 写真の中に閉じ込めて |
[ 罪 ] 閉じ込めていたものが じわりじわりとわたしを圧迫する 襲ってくる 心を押し潰す 築いた幸福を 得る権利など無いとでも 言いたげに わたしは充分 報いは受けた どうかどうか やっとつかんだこの幸福を 壊さナイデ 奪わナイデ |
[ 支え愛 ] 与えられる愛情ほど 心地よいものはない お気に入りの入浴剤を入れたお風呂に 浸かっているように だけどそれは当たり前じゃない それを忘れちゃいけないと 切に想う 与えられた愛情の分 愛情を返してあげよう その気持ちがきっと大切 与えられるだけじゃ きっと何もかもを失ってしまう 愛し 愛され 人間は生きてゆく |
[ さがしもの ] さがしもの ほしい時には見つからなくて 気にとめていない時には ころりと出てくる そんなもの |
[ 彼岸花 ] たんぼの畦道に、ぽつり、ぽつりと鮮やかな紅。 炎のような、彼岸花の群れ。 にょっきりと地面から突き出たつるつるの茎。見れば見るほど不思議な形をしている花。 この花が好きで、幼い頃、一本摘んで帰りました。 そうしたら、玄関先で母にやんわりとこう言われました。 「彼岸花を家の中に入れると、火事になるから駄目なのよ」と。 わたしは手に持った彼岸花を、家の前の溝に捨てました。 その日の夢で、その彼岸花は、溝の中でぽっと燃えて灰になってしまいました。 |
[ おひめさま ] 呪いによる百年の眠りのあとに 幸せを手に入れたいばら姫のように 毒りんごを食べたあとに 王子様が迎えにきてくれた白雪姫のように こうして眠りに落ちたあと 次に瞳を開けた時には 何もかも手に入れられていたら良いのに ものがたりのお姫様のように |
[雲の浪] うすい水色を波立たせるように広がる雲。 波紋のように、近等に。 わたしたちが空と呼んでいるものは、もしかしたら海ではないかしら。 空という海の中で、たゆたいながら輝くお天道さま。 浪に揺られて、光は柔い。 群れて飛ぶ鳥たちは、まるでお魚。 雲を引いて飛ぶ飛行機は、きっと遠くを泳ぐ大魚。 欠けた白いお月さまは、そう、珊瑚の欠片。 |
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